名古屋高等裁判所 昭和52年(ネ)18号 判決 1977年6月13日
従前の控訴人清水サチ、同清水庸道、同清水英幸、
同清水快郎の承継人にして、かつ、遺言者清水千代二郎の遺言執行者
控訴人
清水サチ
右訴訟代理人
濱田盛十
被控訴人
鳥山守平
右訴訟代理人
辻巻真
外一名
被控訴人補助参加人
清水清明
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用(参加によつて生じた分を含む。)は控訴人の負担とする。
三 本件につき、当裁判所が昭和五二年三月一一日にした強制執行停止決定は、これを取消す。
四 この判決は、前項につき仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一本件物件が、もと、千代二郎の所有に属していたこと、本件物件につき、同人が、昭和三一年一月一三日これを、その長男英一に遺贈する旨の遺言公正証書が存在すること、千代二郎が昭和三三年四月二二日死亡し、次いで、英一が昭和四六年三月一四日死亡したこと、控訴人が昭和五一年一一月一九日千代二郎の遺言執行者に選任せられたことは、いずれも当事者間に争いがない。
しかして、<証拠>によると、千代二郎は、昭和三一年一月一三日前記遺言公正証書をもつて、控訴人主張の如き遺言をするとともに、英一を遺言執行者に指定したこと、ところで、同人は千代二郎の長男であるが、右遺言に立会うとともに、千代二郎の死亡後は、本件物件に後記代位による相続登記がなされる昭和三三年九月一日以前から、本件物件を含む千代二郎の遺産の分配につき、相続人間で話し合いをしていたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
右事実によれば、英一は、千代二郎の死亡した昭和三三年四月二二日遺贈により本件物件の所有権を取得したこと、そして、英一はその頃遺言者千代二郎の遺言執行者に就職したものと認むべきである。
二清明の債権者である但商株式会社が千代二郎の死亡後、本件物件につき同人の相続人である英一、清明、米倉静栄、溝口花子ら四名の名義に代位による相続登記を経由したこと、その後、被控訴人が本件物件中右清明の持分四分の一につき、控訴人主張の和解調書正本に基づき強制競売の申立をなし、右申立が昭和五〇年五月一五日、登記簿に記入されたことは、いずれも当事者間に争いがなく、<証拠>によると、本件土地につき千代二郎の相続人ら名義に代位による相続登記のなされたのは、昭和三三年九月一日であること、英一の前記死亡により、その妻である従前の控訴人清水サチ、直系卑属である従前の控訴人清水庸道、同じく清水英幸、同じく清水快郎ら四名が、右英一の相続人として同人の地位を承継したことが認められる。
三被控訴人は、受遺者英一の相続人である従前の控訴人らは登記なくしては、本件物件中清明の持分につき持分権を取得したことをもつて被控訴人に対抗することができない旨主張するので、以下、この点につき判断する。
まず、第三者がした代位による相続登記の効力につき検討するに、前記事実によれば、千代二郎の相続人である英一ら四名名義の代位による相続登記がなされた昭和三三年九月一日当時は、遺言執行者(英一)が存在していたことになるので、遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨けるべき行為をすることができないとする民法一〇一三条の規定に照らして、右代位による相続登記は無効の登記といわなければならない。しかしながら、昭和四六年三月一四日遺言執行者英一の死亡により千代二郎の相続人の相続財産に対する管理処分権は相続人に復活することになるので、その時点において、右相続登記は実体に符合するに至つたものといわなければならない。
しかして、被控訴人が本件物件中清明の持分四分の一に対し、強制執行の申立をなし、右申立が、登記簿に記入された昭和五〇年五月一五日当時は、いまだ、遺言執行者は選任されていなかつたのであるから、被控訴人が本件物件中清明の持分に対してした右差押えは有効のものというべきであり、したがつて、被控訴人は、民法一七七条にいわゆる第三者に該当し、受遺者英一の相続人らは、本件物件につき所有権を取得したことをもつて被控訴人に対抗することはできないものといわなければならない。
四そうだとすると、本件物件が、従前の控訴人らの所有に属することを理由に、被控訴人が本件物件中清明の持分に対してした強制執行の排除を求める控訴人の本訴請求は理由がないので、失当として棄却を免れない。
よつて、これと趣旨を同じくする原判決は、相当であるから、本件控訴を棄却し、控訴費用(参加によつて生じた分を含む。)の負担につき民訴法九五条、八九条、九四条を、本件につき当裁判所がした主文第三項掲記の強制執行停止決定の取消及びこれが仮執行宣言につき同法五四九条、五四八条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(柏木賢吉 白川芳澄 高橋爽一郎)